広島高等裁判所 平成元年(う)168号 判決
論旨は,要するに原判決は,原判示第二において,被告人がK丸の船首部分を,M丸の右舷中央部付近に衝突させてM丸の同部分を損壊し,もってHほか4名の現在する同船を破壊したと認定したが,(1)M丸は刑法126条の艦船に該当しない,(2)M丸の損壊は刑法126条の破壊に該当しない…中略…から,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認,法令の適用の誤りあるいは理由そご,理由不備の違法があるというのである。
まず,右(1)についてみるに,関係各証拠によれば,M丸は,長さ6.3メートル,幅1.51メートル,深さ0.62メートルのディーゼル機関を主機とするFRP製(船質)遊漁船兼交通船(船種は汽船)で,最大搭載人員は船員1名,旅客4名の合計5名であったこと,M丸の所有者(船長)Hは本件当日の午前7時ころ港で同船にその日の釣客4名を乗せ,場所を移動しながら遊漁中午後1時30分ころ本件被害に遇ったことが認められ,このようなM丸の船種,大きさ,機関の種類,船質,用途(特に,単に個人的に使用するのみならず,不特定の釣客を乗せていたこと)等に徴すると,M丸は刑法126条の艦船に該当するというべきである。所論は,広島高等裁判所昭和53年11月2日判決を挙げてM丸が刑法126条の艦船に該当しない旨主張するが,右判決は,モーターボートのフロント・ガラスを壊した事案について刑法260条前段の罪が成立するとした原判決に対し,被告人から控訴があり,弁護人の右モーターボートは刑法260条の艦船に該当しない旨の控訴趣意を容れなかったもので,刑法126条に関するものではないから,これをもってM丸が刑法126条の艦船に該当しない根拠とはなし得ない。
次に,右(2)についてみるに,艦船の破壊とは,艦船の実質を害して航行機関たる機能の全部または一部を不能ならしめる程度に破壊することをいうところ,関係各証拠によれば,M丸はK丸に衝突された結果,右舷中央部付近の上縁材が切断されて長さ約168センチメートルにわたり内側に折れ曲がり,その下部の舷側外板が幅約47センチメートル,高さ約30センチメートルにわたり破損し,その下部の防舷台が長さ約32センチメートルにわたり破損し,更にその下部の舷側外板が幅約10センチメートル,高さ約25センチメートルにわたり破損して欠落するに至り,舷側外板の破口は水面約5センチメートルの位置にまで達したこと,そのためM丸は斜めになりながらもなんとか港まで帰ったものの,その後は危険で損壊部分を修理するまで使用しなかったことが認められ,右事実によれば,M丸の損壊は,小刀を使って船縁を傷つけたりしたのと異なり,乗客を乗せ安全な運行をするには耐えられなかったもの(舷側外板の右のような損壊状況からすると,波が高い時などには危険な状態になることが容易に想像できる。)で,艦船の実質を害して航行機関たる機能の一部を不能ならしめる程度に損壊されたということができるから,M丸の損壊は刑法126条の破壊に該当するというべきである。